普段、あまりマンガを読まない僕が、必ず発売日に買うほど熱中したマンガがある。
「センゴク権兵衛」。この一大歴史叙事詩の最終巻が2022年5月6日に発売し、
18年にわたる連載が遂に終了した。
◆長年読み続けたマンガ
このマンガを読み始めたきっかけはもう覚えていない。
たぶん床屋か喫茶店に置いてあったものを何気なく手に取ったのが始まりだと思う。
歴史に興味はなかったが、キャッチコピーに惹かれて読みはじめた。
そのキャッチコピーは、こうだ。
「史上最も失敗し、挽回した武将」
このマンガの主人公は仙石権兵衛秀久という、戦後時代に実在した武将。
マイナーな武将だが、歴史好きならもしかしたら知っているかもしれない。僕は知らなかった。
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と同じ時代を生き、また、それぞれの家臣として激動の戦国時代を生き抜いた武将の半生を描いた作品だ。
◆仙石権兵衛という武将
マイナー武将の物語なんて面白いの?と半信半疑で読み始めたが、結局「センゴク」「センゴク 天正記」「センゴク一統記」「センゴク権兵衛」の4部作に加え、外伝の「センゴク外伝 桶狭間戦記」の全77巻を読み切ってしまうほどに面白かった。
史実をもとにした漫画なので、ストーリーそのものに意外性はない。
それなのにここまで熱中できたのは、仙石権兵衛のキャラクターによるところが大きい。
実直かつおおらか。悪く言えばあまり物事を深く考えない性格で、勘と勢いと運で人生を切り開いていくタイプ。作中でもよく「イノシシ武者」と揶揄されていた。
勢いだけのタイプだったら、僕もここまで熱中しなかったと思う。
馬鹿にされてはいたものの、節目節目で時代の大局を彼なりの視点でしっかりと見据えて決断し、ものごとの筋を通し、人と人との「縁」を大切にしながらまっすぐに生きる様は、周りの人間を惹き付ける魅力あふれるキャラクターとして一本芯が通っていた。
キャッチコピーの通り、何度失敗しても挽回し、いちど改易(大名をクビになること)されたに もかかわらず再び大名に返り咲くなど、異色の経歴を持った彼の生きざまに、何度勇気づけられたことか。
◆歴史を好きになれなかった少年時代
僕は小学校からずっと、歴史が嫌いだった。
歴史の授業は、どうでもいい年号と、どこの誰だかわからない人や出来事を暗記させられるだけのつまらない授業だと感じていた。
このマンガは、そんな僕が歴史に興味を持ち始めるきっかけになった。
当たり前だが、歴史とは、時代時代の人々が紡いだ営みの結果だ。
少年期の僕には、それが分かっていなかった。
「センゴク」シリーズの魅力は、僕が単に記号としてしかとらえていなかった、歴史の教科書に書かれていた出来事のひとつひとつを、そこに至る経緯、苦悩、決断、感情の動きを丁寧に描いていることにある。
その時代に生きた人々が、大いに苦悩し、時代の流れに翻弄されながら、命を燃やして生き抜いた結果が歴史なのだと、この作品でようやく理解することができた。
◆さいごに
5/7、最終巻を読み終えた。
長年にわたって連載されてきた一つの物語が、終わったことを実感した。
読み切ったという達成感と、終わってしまったという喪失感の入り混じった複雑な心境だ。
当たり前だが、最後に仙石秀久は死ぬ。
読み切った時、ああ、仙石はとうとう死んでしまったのだなと思った。
おかしな話だ。実在した本人は400年も前にとっくに死んでいるのに。
それもこれも、仙石秀久をはじめ乱世を生き抜いた数々の武将を魅力的に、かつ生命力あふれるキャラクターとして現代によみがえらせてくれた作者の宮下英樹氏のご尽力の賜物だと思う。
あらためて、素晴らしい作品を生み出してくれた宮下英樹氏に、感謝の言葉をささげたい。